アルカリ長石 alkali feldspar (K,Na)AlSi3O8  戻る

サニディン sanidine 
単斜晶系 二軸性(−)2Vx=0〜60°(幅がある) α=1.517〜1.530 β=1.523〜1.530 γ=1.524〜1.537 γ-α=0.007程度 火山岩中のもの著量のNaを含むことが多く,それはわずかに屈折率が高い傾向がある。
正長石 orthoclase
 単斜晶系 二軸性(−)2Vx=33〜70°(幅がある) α=1.518〜1.529 β=1.522〜1.533 γ=1.522〜1.539 γ-α=0.008程度
微斜長石 microcline
 三斜晶系 二軸性(−)2Vx=43〜90°(幅がある) α=1.518〜1.522 β=1.522〜1.526 γ=1.525〜1.530 γ-α=0.007

※いずれも斜長石や石英よりもやや屈折率・干渉色がやや低い。

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 原子配列上,テクトケイ酸塩のフレームワークを構成しているAlとSiがどのくらい秩序配列しているかにより,サニディン(無秩序配列)・正長石(やや秩序配列)・微斜長石(秩序配列)に分けられる。化学組成は大抵は原子比でK>Naなので,「カリ長石」とか「カリウム長石」とも呼ばれる。しかし火山岩中のものには,しばしばK<Naのものがある(アノーソクレースと呼ばれる)。
 火山岩中のものは結晶成長が早く,かつ,急冷されるため,おおむねサニディンに該当する。深成岩中のものは結晶成長が遅く,かつ,徐冷されるため,サニディンよりも正長石・微斜長石のことが多い。それらはアイソジャイアーによる光軸角である程度は区別できる。なお,マイクロクリン構造を有するものは明らかに三斜晶系の微斜長石である。
 なお,X線粉末回折で(1 3 1)の反射の分裂度(三斜度)も区別点になる。三斜度Δ=12.5(d(1 3 1)-d(1 -3 1)) これは完全な単斜晶系(サニディン・正長石)では0で,三斜晶系(微斜長石)ではd(1 3 1)が,d(1 3 1)とd(1 -3 1)に少し分裂し,Δが0から外れ,最大1.0までの範囲の値となる。
※長石類に限らず,一般的に結晶中の同一サイトにおける異種原子同士の秩序配列は,それらの原子の大きさ(イオン半径)の差が大きいほど,結晶成長速度が遅く冷却速度が遅いほど,起こりやすい傾向がある。また,原子間距離が近いサイトほど秩序配列が起こりやすい(例として,単斜輝石ではCa・Naなどが入るM2サイトよりも,Mg・Alなどが入るM1サイトの方が秩序配列が起こりやすい)。
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色・多色性/無色で,多色性なし。

形態/流紋岩中では4角形を基調とする断面がよく見られ,長方形のものは(0 1 0)面が発達した板状結晶の長く伸びた断面である(伸長は正と負の場合がある)。花崗岩類や片麻岩類では大抵は他形。なお,アルカリ花崗岩(マグマの固結過程で初期からアルカリ長石が成長し続けた岩石)では1〜数cmの自形の斑晶をなし,眼球片麻岩では1〜3cmの粗大な自形の斑状変晶をなし,それらは顕微鏡の視野より大きく,カルルスバット双晶をなすものが多い。


へき開/2方向に認められ,(0 0 1)に完全,(0 1 0)に明瞭。a軸方向から見るとほぼ直交したこれらの2方向のへき開が認められる。長石類のへき開を見るには平行ニコル下で絞りを絞るとよく見える(下画像)。


消光角/Kに富むものは(0 0 1)のへき開に対し5°程度,(0 1 0)のへき開に対し直消光。Naに富むものは(0 0 1)のへき開に対し数〜10°程度,(0 1 0)のへき開に対し20°程度以下。

双晶/サニディン・正長石は単斜晶系なのでアルバイト双晶やペリクリン双晶がなく,時にカルルスバット双晶があり,それは1回のみの単純なもので反復していることはほとんどない。微斜長石は三斜晶系なのでカルルスバット双晶以外にアルバイト双晶やペリクリン双晶があり,特徴的に細かく反復したアルバイト双晶とペリクリン双晶の重複した格子状のマイクロクリン構造をなす場合があり,それはクロスニコルで認められる。※長石類にはバベノ双晶やマネバハ双晶など,他の形式の双晶もあるが,通常の岩石中では出現頻度は低い。


累帯構造/K:Naの量比がクロスニコル下でのわずかな消光角の違いに表れる場合がある。火山岩(流紋岩など)中のアルカリ長石には累帯構造が見られる傾向があり,アノーソクレースでやや顕著に見られる場合がある。深成岩(花こう岩など)中のアルカリ長石は累帯構造は少ない(徐冷するため累帯構造が消失する傾向がある)。

産状ケイ長質の火成岩中に多く見られ,片麻岩などにも見られる。

・深成岩中のものは高温からの徐冷でNaに富む曹長石の離溶ラメラが(7 0 -1)に平行に多く析出し(ほぼ(1 0 0)に近い),これをパーサイトといい,その組織をパーサイト組織という。なお,接触変成作用を受けた流紋岩中のものにも徐冷によるパーサイト組織がしばしば見られる。

・ケイ質泥岩中には時に微小な自生鉱物として沸石類とともに生成するほか,熱水鉱脈中にもしばしば出現し(氷長石と呼ばれる),これらは比較的急激に結晶成長したためAlとSiが無秩序に配列したサニディンに該当し,かつ,低温生成なのでNaを固溶できずKAlSi3O8の端成分に近い。




流紋岩中のアルカリ長石(アノーソクレース)
Af:アルカリ長石

短い短冊状の断面の自形の場合が多い。火山岩中のアルカリ長石にはNa<Kのもの以外に,時にNa>Kのアノーソクレースというものがあり,三斜晶系でサブミクロンオーダーの非常に細かいアルバイト双晶をなす(偏光顕微鏡ではわからない)。そして,右のようにカルルスバット双晶をなす場合もある。
アノーソクレースは三斜晶系なので,上画像のように(0 1 0)面が発達した板状結晶の長く伸びた断面,あるいは,右のようなカルルスバット双晶の双晶面に対し,20°程度までの斜消光を示し,時に上画像のように,消光角の違いで累帯構造(Na:Kの量比などによる)が見られる。2Vx=50°は前後。
なお,接触変成作用を受けた流紋岩中のものは,一度加熱され徐冷したため,微斜長石になっている場合があり,かつ,累帯構造は消失している。



カルルスバット双晶をなす流紋岩中のアルカリ長石(アノーソクレース)
三斜晶系のアノーソクレースで,カルルスバット双晶をなし,その双晶面に対し20°程度以下の斜消光を示し,双晶境界が認められる。


花こう岩中のアルカリ長石
Qz:石英,Kf:アルカリ長石,Pl:斜長石,Bt:黒雲母

この花こう岩中のアルカリ長石はサニディン〜正長石で,マイクロクリン構造は認められない。無色だが平行ニコルではやや汚れたように見える。クロスニコルでは石英や斜長石よりも干渉色が低く,冬の曇り空のようなまだらな感じの灰色の干渉色を示す。



花こう岩中のマイクロクリン構造をなすアルカリ長石(微斜長石) クロスニコル
Kf:アルカリ長石(微斜長石−中央,上左−サニディン〜正長石),Pl:斜長石,Bt:黒雲母

花こう岩中のアルカリ長石にはしばしば三斜晶系の微斜長石があり,クロスニコルで細かいアルバイト双晶とペリクリン双晶が重複した格子模様(マイクロクリン構造)が見られる。マイクロクリン構造がないサニディン〜正長石(上左のKf)と一緒に同じ花こう岩に含まれていることが多い。



こう岩中のアルカリ長石のカルルスバット双晶とパーサイト(クロスニコル)
Kf:アルカリ長石,Qz:石英

アルカリ長石は花こう岩中の大きな斑晶や,片麻岩中の斑状変晶として見られることがしばしばで,それはたいていカルルスバット双晶をなす。その双晶境界は上画像のようにクロスニコルで結晶を半分にするような消光状態で認められ,アルバイト双晶のように反復することはほとんどない。
また,上画像のアルカリ長石にはゆっくりとした温度低下で,Naの多い曹長石が互いにほぼ平行に並んだ細い糸くず状離溶ラメラとして母相の(1 0 0)に近い方向に多く見られる(パーサイト組織)。母相のKに富む部分の干渉色は灰色で低いが,離溶ラメラの曹長石はわずかに複屈折が高く明るい白っぽい干渉色を示す。なお,曹長石の離溶ラメラは母相の(1 0 0)の方向に近く,カルルスバット双晶の双晶境界においてもほぼ連続している。




熱水鉱床中のアルカリ長石(氷長石) 平行ニコル
Af:アルカリ長石(微細な菱形〜平行四辺形),周囲を埋めている部分はおおむね石英

アルカリ長石は熱水鉱床にも産し,特に浅熱水成金銀石英脈によく見られる。その浅熱水成金銀石英脈には乳白色緻密な石英が多く,その偏光顕微鏡観察ではこの画像のように,数〜数10μm程度の微細な菱形〜平行四辺形のアルカリ長石が緻密な石英中にたくさん見られる(平行ニコルでステージ下の絞りを絞ると見やすい)。それをクロスニコルで観察するとそれらのアルカリ長石の互いの結晶方位はまちまちであることがわかる。これは約250℃以下の低温熱水中のケイ酸コロイドからゲル状ケイ酸が最初に沈殿し,その後,その結晶化の際,それに含まれていたカリウム分やアルミニウム分が結晶方位に規則性がない微細なアルカリ長石として析出したものである。
一方,このような浅熱水成金銀石英脈には,これ以外に肉眼的粒度のアルカリ長石も産するが,これは最初から熱水中のイオンから結晶化してできたアルカリ長石である。

このような浅熱水成金銀石英脈中のアルカリ長石は火成岩中のものより,はるかに低温でできるので,あまりNaを固溶できず,かつ急速に結晶成長するため,フレームワークのAl原子とSi原子が無秩序配列したサニディンに該当するものが多い。特にこれを氷長石(アジュラリア)といい,堆積岩中の続成作用でもできる。